東京地方裁判所 平成7年(特わ)224号 判決 1995年7月03日
裁判所書記官
諸星聖臣
本店所在地
東京都港区南青山六丁目九番二号
セイシュウ株式会社
(右代表者代表取締役 土井成秀)
本籍
神奈川県横浜市中区不老町一丁目三番地の六
住居
東京都中央区日本橋浜町三丁目七番三号 日本橋KIビル三〇一号
会社役員
土井成秀
昭和三九年九月七日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官沖原史康、弁護人山田宰各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人セイシュウ株式会社を罰金三三〇〇万円に、被告人土井成秀を懲役一年六月に処する。
被告人土井成秀に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人セイシュウ株式会社(以下「被告会社」という)は、東京都港区南青山六丁目九番二号(平成三年一〇月一日から平成五年一月一〇日までの間は東京都港区南青山四丁目一四番一三号)に本店を置き、広告代理業等を目的とする資本金二〇〇〇万円(平成二年一一月一九日以前は五〇〇万円)の株式会社であり、被告人土井成秀(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の制作費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上
第一 平成二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一六〇七万三五七二円(別紙1の1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成三年二月二八日、東京都港区西麻布三丁目三番五号所在の所轄麻布税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一七〇五万六三四一円で、これに対する法人税額が五九三万九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第五九四号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四五五三万七七〇〇円(別紙2の1のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額三九六〇万六八〇〇円を免れ
第二 平成三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億九〇九八万六二二七円(別紙1の2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年三月二日、前記麻布税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億五二三七万一八四九円で、これに対する法人税額が五六二二万二四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第五九四号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億四五七〇万三〇〇〇円(別紙2の2のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額八九四八万六〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
全事実について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書(四通)
一 大蔵事務官作成の売上高調査書、当期商品仕入高調査書、制作費調査書、期末商品棚卸高調査書、役員報酬調査書、荷造発送費調査書、会議費調査書、旅費交通費調査書、通信費調査書、消耗品費調査書、事務用消耗品費調査書、水道光熱費調査書、支払手数料調査書、租税公課調査書、雑費調査書、受取利息調査書、雑収入調査書、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書、役員賞与調査書、役員賞与の損金不算入額調査書、固定資産売却損調査書、事業税認定損調査書、繰越欠損金の当期控除額調査書、領置てん末書
一 土井晤恵、堀厚、齋藤清の検察官に対する各供述調書
一 麻布税務署長作成の証拠品提出書
一 検察事務官作成の捜査報告書
一 東京法務局登記官作成の登記簿謄本、閉鎖登記簿謄本二通
第一の事実につき
一 岩田善信の検察官に対する各供述調書
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成七年押第五九四号の1)
第二の事実につき
一 中尾政嗣、相良直嗣、山本博美、高野正樹、麻田浩、西口隆文の検察官に対する供述調書
一 加藤昇の大蔵事務官に対する質問てん末書
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成七年押第五九四号の2)
(適用法令)
罰条
〔ただし、刑法は、いずれも、平成七年法律第九一号による改正前のものを指す〕
被告会社につき 判示各事実につき、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項(ただし、判示第一事実の罰金額の寡額につき、刑法六条、一〇条、平成三年法律第三一条による改正前の罰金等臨時措置法二条一項)、二項(情状による)
被告人につき 判示各所為につき、いずれも法人税法一五九条一項(ただし、判示第一事実の罰金額の寡額につき、刑法六条、一〇条、平成三年法律第三一条による改正前の罰金等臨時措置法二条一項)
刑種の選択
被告人につき 懲役刑
併合罪の処理
被告会社につき 刑法四五条前段、四八条二項(各罪の罰金額を合算)
被告人につき 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重)
刑の執行猶予
被告人につき 刑法二五条一項
(量刑の事情)
本件は、広告代理業等を業とする被告会社の社長である被告人が、いわゆる成人向けダイヤルQ2の仕事等で得た利益を将来の事業資金蓄財の目的で、あるいは自らの競艇等の遊興費に充てるため一部売上高を除外し、架空の制作費や当期商品仕入高を計上し役員報酬を水増計上するなどして、過少申告により所得を少なくみせかけ、合計一億二九〇八万円余の法人税を脱税したという事案であり、ほ脱率は、通算約六七・四パーセントに達している。
右の脱税額の大きさ、ほ脱率の高さ、架空名義の法人の請求書を作成したり、給与台帳を改ざんした犯行の計画性などを勘案すると、その犯情には、悪質な面があり、同種犯罪予防の観点から実刑に処することも考慮され得る。
ただ、被告人は、道路交通法違反での罰金前科二犯以外に他に前科前歴がない。
また、被告人は、幼児のころから父親がいない家庭に育ち、母親一人で生活を支えていたこと等から、経済的な事情で、希望私立高校への進学もかなわず、都立定時制高校に進学後中退せざるを得なかった不遇な環境にありながら、逆境に挫けず自力で、被告会社等を創業し、現在は前記ダイヤルQ2の営業から脱却し、自己のかねてから念願の音楽事業への展開を図る弱冠三〇歳の青年実業家であって、同人を頼る従業員や、これを支援する業界関係者も認められるところである。
本件発覚後は捜査に協力したほか、真摯な反省の態度を示し、今後の納税に遺漏ないことを期して、再犯しない旨を誓っている。
これらの諸事情は、被告人に有利に斟酌すべき情状と認められ、社会内で自力更生の機会を与えることが施設内処遇より相当と認められる。
さらに、被告会社は、本件二事業年度分の税金を修正申告して分納を継続して要る状況で、未だ一部未納分があることや、脱税金の使途等には、情状としてよろしからぬ面が散見されるが、被告人は被告会社の未納分の完納を誓って履行しつつあることは考慮すべき点であると認められる。
当裁判所は、以上のほか一切の情状を考慮して、主文のとおり量刑した次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑 被告会社・罰金四〇〇〇万円、被告人・懲役一年六月)
(裁判官 大谷吉史)
別紙1の1
修正損益計算書
<省略>
別紙1の2
修正損益計算書
<省略>
別紙2の1
ほ脱税額計算書
<省略>
別紙2の2
ほ脱税額計算書
<省略>